論文の構成 (part1[2.2.1~2.2.5])
2.2.1 全体構成
皆さんは、この大学の実習でいくつかの実験レポートを書いてきたことでしょう。
実験レポートを思い出してください。
そこには定められたフォーマットがあったと思います。
下の図1のようにタイトルと日付、名前などを表紙に書き、本文では目的や理論、方法、結果、考察などを書きましたよね。
図1: 実験レポート
これがフォーマットであり、実は工業系論文の基本構成でもあります。
このフォーマットに沿って卒論を書くことになります。
図2: 卒論
ただ、実験レポートと卒論では書き記すことの観点が異なります。
- 実験レポート: 書き手が実験を通して学んだことをまとめる
- 卒論: 書き手が作ったもの、計ったことをほかの人に知ってもらう
そのため、卒論本体の構成は次のようになります。
1. はじめに(まえがき、背景と目的)
2. 研究したことや開発したものを記述(アイテムの記述)
3. 測定方法
4. 測定結果
5. 考察
アイテムについて
「アイテム」は日本産業規格(JIS)で定義されている。 <アイテムの対象になるもの> 1. アイテムは個別の部品、構成品、デバイス、機能ユニット、機器、サブシステム、またはシステムである 2. アイテムはハードウェアソフトウェア、人間またはそれらの組合せから構成される (以下略) このようにJISではエンジニアリングにおいて用いられるものや製作されるものをすべてアイテムと呼び、本書でもこれに準拠する。実験レポートと卒論の構成
図3が実験レポートと卒論の構成を比較した図となっています。
図3: 実験レポートと卒論の比較
卒論の頭の部分を見てみると、図からもわかるようにまずタイトルが先頭になり、次に著者名と続きます。
この時、タイトルと著者名の和文と英文の両方で記す場合や研究会の予稿では所属を記す場合があります。
また、卒論では学籍番号や研究室名など指定された項目を記します。
タイトルと著者名の後には概要を書きます。
概要は指定された文字数の範囲でその論文の内容をまとめます。
全体的な内容を踏まえる必要があるので、概要は論文を書ききった後に著者名の下の位置に記します。
概要の次はキーワードを設定します。
今日では検索エンジンが高性能となり、そこまで意識されなくなりましたが、現代でも論文の要点を表すために残されています。
同じ分野で研究している人たちに共通する3~5語を選択します。
ここまでが論文の「顔」となり、Google Scholarなどの検索システムで表示されます。
そのため、この「顔」の部分によって論文を検索した人たちが、この論文を読むかどうかの判断を行うことになります。
2.2.1 まとめ
- 卒論の基本的な構成は実験レポートと同じ
- 卒論は「書き手が作ったもの、計ったことをほかの人に知ってもらう」の観点で書く
- 卒論の論文本体の構成は「はじめに」、「アイテムの記述」、「測定方法」、「測定結果」、「考察」
2.2.2 タイトル
まず論文の先頭に記すことになるタイトルについて考えていきます。
タイトルには考えるべき要素があり、それを説明していきます。
1. 文字数
まずタイトルの文字数について気を付けましょう。
例として、180文字以上あるとても長い論文のタイトルを紹介します。
<例>
ACC/AHA 2007年版不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞患者管理ガイドライン:米国心臓病学会/米国心臓協会診療ガイドライン作業部会(2002年版不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞患者管理ガイドライン改訂委員会)報告書: 米国救急医学会、心臓血管造影・インターベンション学会、胸部外科学会と共同で作成:米国心臓血管・肺リハビリテーション学会、学術救急医学会が承認。
この論文は、医学系の論文で、「タイトル」としてこの文が登録されています。
この文章から、内容をコンパクトにまとめることがいかに重要であるかわかります。
文字数の目安としてニュースのヘッドラインの文字数を参考にしてみましょう。
図4: ニュースのヘッドラインの最大文字数
ここでは、産経ニュースの45文字が最長になっていました。
皆さんはこのラインを超えないように気を付けましょう。
実際にGPTを使用して、先ほどの長い論文のタイトルを45文字以内にしてみたのが次の一文です。
2007年版 ACC/AHA 不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞ガイドライン」
きれいにまとまっているように見えますね。
2. タイトルの付け方
タイトルに必要な情報は、「その論文には何について書かれているのか」です。
短く表せるのが理想ですが、短すぎて内容が不明瞭になっては元も子もありません。
そのため、タイトルには「何を研究し、どのような知見を得たか」をコンパクトに表すことが求められます。
例えば以下のようなタイトルがあったとします。
・SNSの研究
・表情認識に関する考察
・エンジンの燃焼特性の分析
これらのタイトルから形容詞を外して考えるとタイトルの内容がわかりやすくなります。
・SNS
・表情認識
・エンジンの燃焼特性
それではこれらの論文を修正してみましょう。
この3つの論文のタイトルの問題点は主に具体性がなさ過ぎて研究の内容が見えてこないことです。
1. SNSの研究をした論文のタイトル
・ SNSにおける投資関連ワードと株価の推移
・ 災害時のSNS投稿とアクセス数
・ SNSのセキュリティ脆弱性
・ 表情認識に用いられるアルゴリズムと認識精度
・ ~ソフトウェアパッケージを用いた表情認識システム
・ 表情認識を用いたユーザの商品に対する反応判別
・ ~型ディーゼルエンジンのシリンダ形状による燃焼特性の向上
・ 外気温及び気圧によるターボファンエンジンの燃焼特性の変化
タイトルのつけ方についてまとめたものが次の図5になります。

図5: 論文のタイトルのつけ方1
性能と特性について
辞書には - 「性能」・・・ 機械などの性質や能力 - 「特性」・・・ そのものだけが持つ、特別な性質や能力 - 「性質」・・・ その人やものが、もともと持っている傾向や特色 - 「能力」・・・ あることを成し遂げることのできる力 と説明されています。 「エンジン性能を測定する」と「エンジン特性を測定する」はどちらも実際に使用される言葉です。 しかし、「特性」はある入力パラメータを変化させたときのアイテムの応答を意味します。 そのため、「エンジン特性」であれば、回転数をパラメータとしたときのトルクや入力する空気量をパラメータとしたときの燃料供給量、など個別のパラメータに対する値です。 これらが集まって、「性能」を構築します。3. タイトルがあらわしている内容
一番大事なことは内容とタイトルが乖離していないことです。
以下のことを意識してタイトルをつけましょう。
図6: 論文のタイトルのつけ方2
4. 略語を使わない
タイトルには略語や通称を使いません。
ダメな例:
・Li-Poバッテリーの充放電特性 (-> リチウムイオンバッテリー)
・UAVを用いた作物生育状況計測システム (-> 小型無人航空機)
5. 英文タイトル
英文のタイトルは和文のタイトルと違い、修飾語は使用しません。
日本語では「~の研究」、「~考察」などの言葉を使用してもよいのですが、英語では使用しません。
これは考えてみれば当たり前です。
なぜなら、「~の研究」なんで言葉を入れなくても論文なんだから研究とわかります。
「Study of」、「Development of」などのフレーズは使用しません。
2.2.2 まとめ
- タイトルは長くても45文字
- タイトルには「何を研究し、どのような知見を得たか」をコンパクトに表すことが求められる
- 内容に沿ったタイトルを付け、略語や通称は使用しない
2.2.3 名前
論文に記載する名前について、漢字とローマ字それぞれで気を付けることがいくつかあります。
- 漢字で表記
-
- 名字と名前の間のスペース
-
- 全角か半角か
-
ローマ字で表記
-
- (名前) -> (名字)の順
-
- ヘボン式を使用 (Oosaka -> Osaka、Tokyou -> Tokyoのようなやつ)
また、これらはあくまで一般的なもので、名字だけ大文字にするローマ字フォーマットなども存在しています。
そのため、発表予定の卒論集や学術誌のフォーマットを確認してください。
外務省のホームページやパスポートの表記なども参考にしましょう。
2.2.4 「はじめに」
「はじめに」とは
「はじめに」を書く意図は、「その研究開発がどれだけ役に立つものなのかを読み手に伝える」ということです。
そのため、この章では研究の背景や研究の目的、論文の目標を示します。
困っていること、およびその解決方法を述べることが「研究の目的」になります。
また、具体的に「課題にどう立ち向かうか」、「どのようなアイテムを実現したいか」、「実現できればどのようなメリットがあるか」を述べます。 これが「論文の目標」になります。
また、ほかの人たちはどのような解決案を提案しているか、それらとどこが違うのかを記します。
エンジニアリングではクライアントの要求を実現する、あるいはクライアントの課題を解決するためのアイテムを開発します。
例えば、交通渋滞を回避するナビシステム、使い終えたら分解されるプラスチックなどの提案を行い、それをサポートするデータ(計測データ、シミュレーション結果など)を添えて論文にします。
「はじめに」で記すべきことは以下の通りです。
- 研究の必要性 (状況と動機、研究の位置づけ、など)
- 課題と解決案
- 論文の目標 (何を、どのように、どこまで明らかにするのか)
- 研究の範囲 (全体のシステムのうち、何を研究したのか)
研究の必要性
解決すべき課題が不明確では、開発されたアイテムが有用かどうかわかりません。
研究の目的を理解してもらうためには研究の必要性を読み手に説明する必要があります。
A. 状況と動機を説明する
アイテムの開発意図や動機を記します。
研究は何らかの課題を定義して、その解決のために始めます。
<例>
~統計によると、家庭用殺虫剤から大気中への化学物質放出量は年間100トンを超える。~制約の統計ではそのうち50%がゴキブリ退治のために使われている。 自律的にゴキブリを捕まえるロボットができれば化学物質放出量を低減できると考えて、開発に取り組んだ。
また、上記の例のように信頼できる統計データを引用できれば、説明に説得力が増します。
ただ、関連する報告や統計を見つけられなくても開発の必要性を主張することはできます。
B. 研究の位置づけ
良いアイデアだと思っても誰かがすでに同じようなことをやっているものです。
まずは論文を検索してみて、類似している論文があればそれらを読み、参考にできる部分がないかを考えてみましょう。
その論文に記されたアイデアや結果の一部を応用してもかまいません。
大事なことは異なる点を主張することです。
以下に例を示します。
<例>
Aは1μs幅の送信パルスを用いた赤外線フェイズドアレイレーダによる害虫探査機を報告した。
本研究ではパルスを100nsにすることにより、レーダの性能向上を目標とする。
答え
<答>: × 要約が不十分であり、「レーダの性能」という部分も具体的ではありません。良い例
<〇な例>
Aは1μs幅の送信パルスを用いて体長20mmの虫を検出可能とする赤外線フェイズドアレイレーダを報告した。
本研究ではパルスを100nsにすることにより、体長5mmの虫まで検出できるようレーダの分解能向上を試みる。
過去と同じ論文を卒研とすることは当然できませんが全くの「新規」ということもありません。
そのためほかの研究との違いを明確に示すことが重要です。
C. 参考文献に関して二言
参考文献については以下のルールを守りましょう。
- 卒論に関連のあるものであること
- 誹謗中傷をしないこと
課題と解決案
課題と解決案の関係についてみていきましょう。
研究を行い何かを開発する際には解決する課題を定義します(開発の目的)。
その開発の目的に対して解決の手段(アイテム)を考えます。
目的を達成する手段は一つではありません。
このうちの一つの手段を選んでアイテムを考案することが、研究開発となります。
以下の図は目的と手段の階層関係を表した図です。
図7: 目的と手段の階層関係
この図では、選択肢と構成要素を矢印で表しており、これが手段と目的の関係になります。
この図では目的を達成するための手段が再び目的になっており、それが何層にも続いています。
これらの階層の中から、どこかを選んでアイテムを考案することが研究開発となります。
そのため、「はじめに」では選んだ階層について説明します。
例えば、「捕虫ロボット」という目的の階層を選んだのなら、「虫を見つける」、「虫に近づく」、「虫を捕らえる」の手段の階層とともに記します。
何をどこまで明らかにするのか
「はじめに」ではこの論文で「なにを」「どのように」「どこまで明らかにするのか」のような論文の目標を述べます。
例えば、捕虫ロボットでは、
・虫レーダの位置検出精度を±10mmまで向上させる
・虫レーダの検出範囲を2倍に拡大させる
・捕虫機構の命中精度を25%高める
・ジャイロセンサを搭載して、ロボットの歩行方向のずれ2°以内にする
・ゴキブリに気づかれないように、歩行機構の振動を0.1cm/s^2以下に減らす
研究範囲を明確にする
研究はチームで進めることがあります。
この場合、研究会や学術誌などへの学外発表では全員の名前を記載しますが、卒論では自分のみです。
そのため、全体のシステムを説明し、それに続けて書き手の担当部分がどこからどこまでかをはっきりとわかるように記します。
例えば、
本論文では、ゴキブリ捕虫ロボットに搭載する粘着銛発射機構について報告する。
あるいは次の例のように何年もかかる壮大な研究の一部だとします。
~らは、安眠妨害となるゴキブリの駆除を目的として、住宅の天井も移動可能な六足歩行機構を開発した。 本研究では、ゴキブリに気づかれないように粘着銛の射程範囲内に接近することを目的として、歩行機構の振動軽減を試みる。

図8: 捕虫ロボット
文末表現
「~する、~である」と「~した、~であった」のように現在形と過去形のどっちを使うべきか。
前の輪講でもあったように日本語に明確な時制はないのですが、「~する、~である」のようにしたほうが書きやすく、読みやすくなるのでこちらがおすすめです。
ただ、ほかの人の研究報告については、書き手の執筆よりも前に書かれたものなので、「~した、~であった」と記しましょう。
気を付けること
-
読み手に推測させない さまざまやいろいろなど、書き手の言いたいことを推測させる表現は使用しないようにしましょう。
書いた人も良くわかていないだろうと思われてしまいます。<×な例> さまざまな理由から、搬送装置に関する研究開発がいろいろと行われている。
そのため、「さまざま」ではなくその研究を必要とする理由を示し、「いろいろ」ではなく、書き手が参考とした研究報告(参考文献)に言及して要約し、書き手が何を改良しようと試みているかを具体的に述べます。
<〇な例> ~は、自動倉庫の棚の間を走行する搬送装置の高速化を目的として、走行中に無接触で充電するシステムを開発した。本研究では、充電時のえなるぎー伝送効率の向上を目的として、電力伝送回路の改良を試みる。
-
「など」を使わない
<×な例> ブレーキ動作時にベルトが外れるなどの問題がある。
対処すべき対象をすべて示さなければ、開発したアイテムがどれだけの効果をもたらしたのか議論ができなくなるので、以上の<〇な例>のように「など」を使わずリストを列挙しましょう。<〇な例> ブレーキ動作時のベルト脱落、進行方向の変化、姿勢の傾きを防ぐために、~制御を試みた。
-
「課題」、「問題」と言い換えない
「課題」、「問題」はその内容を直接表記しましょう。
<×な例>
製品は、低温特性についての課題を抱えている。
<〇な例>
冬期には、製品の起動前に予熱を必要とする。
-
「~という(+名詞)」との言い換えを使わない
<×な例> 高齢化という問題に対処するため~
<×な例>では、高齢化の何が問題なのか、何を対処するのか、が明確になっていません。<〇な例> 高齢化による労働人の減少との問題に対処するため~
実のところ、高齢化そのものが問題なわけではありません。
そのうえ、「~という(+名詞)」を使った言い換えは
のように対象を明確化することも限定することもないため、使用は控えましょう。<×な例> pdfという名でファイルを保存する。 <〇な例> pdf形式でファイルを保存する。
ただ、「という」を言い換えではなく、「というのは」のように接続詞的に使うことは問題ないです。 -
当たり前のことを記述しない
論文の冒頭で、のように、誰でも知っているようなことをわざわざ記す必要はありません。<×な例> 近年、スマートデバイスの普及とともにソーシャルメディアの役割も高まっている。SNSはそのリアルタイム性から、マーケティングにも利用されるようになってきた。そこで、SNSに現れる新製品関連語句を発表前後それぞれ1か月間調査した。
前置きのつもりかもしれませんが余計な一文です。
冒頭の文は、論文への導入を図る重要な役割を担います。
よって、ここに示される文は、論文で議論されていると期待されるのです。
そのため、関係のない分を先頭に持ってくると読み手に誤解を生んでしまうかもしれません。
<×な例>では最初の一文を削除して「SNSはそのリアルタイム性から~」から始めるとよいでしょう。
このように論文には、情報を持たない分は入れないようにします。
また、「近年」、「今日」などの相対的な時点を示す言葉は使いません。
なぜなら、論文が読まれるのは書かれてから先の時点であるためです。 -
「先行研究」と記さない
「先行研究」と記されても、読み手には何の情報も伝えられていません。
<×な例> 先行研究では、自動二輪車走行時の加速度が計測された。
このように著者名を記して、原則として一文に要約しましょう。<〇な例> ~(論文の文献番号)は、自動二輪車の乗り心地評価のため、3軸加速度センサを用いて走行時に乗員に加わる加速度を計測した。
-
「本研究室」と記さない
同じ研究室で行った研究は、「本研究室」とするのではなく、論文を参照しましょう。
~(論文の文献番号)は、天井を這うゴキブリを捕まえるため、天井走行機構を開発し、石膏ボード製天井での走行能力を示した。
-
「(動詞+) ~ したので報告する」と記さない 「はじめに」の章の最後の文についてです。
「本論文では~を報告する」と結ぶことがあります。
この表現自体に問題はありませんが、
のように「(動詞+) ~ したので報告する」の形になっているときは、<×な例> ~の原因を検討したので報告する
のどちらかにしたほうがすっきりした記述になっています。<〇な例> ~の原因を検討した or ~の原因に関して報告する
2.2.5 アイテムの記述
「アイテムの記述」ではアイテムに用いる理論やメカニズム、アルゴリズムなどの特徴を説明します。
タイトルと構成
- 「アイテムの記述」の章は開発したハードウェアやソフトウェアの名称を章のタイトルとする
- プロジェクトの一部を開発するアイテムとする場合は、章のタイトルを開発したアイテムとし、下の階層でプロジェクト全体から担当部分へと説明する(図9)
- プロジェクトの一部を担当する場合は、独立したモジュールと考える
- モジュールとして入力が何であり、入力をどう変換して出力を得ているのかを説明できるなら、モジュールの一部でも単独のモジュールとして論文に示すことができる
- 「はじめに」の部分でシステム内での役割を述べ、「アイテムの記述」でモジュールの説明を始める(図10)
図9: 章立て1
図10: 章立て2
アイテムの記述
-
「全体から細部型」に従って説明する(図11)
- 最初に全体を説明し、それから順を追って細部へと説明する
- 全体システムの説明は一つの内容として考えられるので、原則として一つの段落に構成する
- 図を使用する際には段落の先頭で「図~を図題を示す」のように図題をそのまま紹介して、以降の文で説明を示す
図11: 自転車自動操縦システムの構成
-
要素名称については、ほかの要素と区別でき、何をするものなのかを表す名称を付けます
- システムの中での役割、すなわち目的に基づいた要素名称を付ける
-
機器の説明をする際には、「機器名 (メーカー名、商品名、型番)」のような形で記す(図12)。
- 日本メーカーは和文表記、欧米メーカーは英文表記とする
- 株式会社や"Co.,Ltd"などの会社種別や登録商標は不要
- 日本法人があっても海外メーカーは英文表記とする
- メーカー名と商品名の間は、和文表記なら全角の「、」、欧文表記では半角の「,」に続けて「半角スペース」を挿入する
図12: 機器の説明
- 各部品の説明: ハードウェア構成(図13)
- 全体構成に続けて、ハードウェア構成を示す
- 構成の把握にはブロックダイアグラム、物理的な配置は実態図など示したいことによって図を使い分けましょう。
図13: 自転車自動操縦システムブロックダイアグラム
- 各部品の説明: ソフトウェア構成
- ハードウェア構成の次にソフトウェア構成を説明する
- 説明は「データの流れ(図14)」、「動作の順序」、「ソフトウェアの階層(図15)」のいずれかに沿った順序で説明する
図14: データの流れに沿った例
図15: ソフトウェアの階層に沿った例
説明図
- 説明図の作り方
- 図はそれだけを見てもわかるように構成する
- 図中の項目には説明を加え、必要に応じて、要素名称や寸法を記入する
- 略語は使わない
- 図は説明のための道具であるため、図の内容は必ず本文で説明する
- 図の配置と同じ順番で説明する
- 本文中で説明されている要素が図から抜け落ちてないか注意する
- 図と本文では同じ表記を使用する
- ばらばらの表記は読み手の理解を妨げる
- 表記を無意識に間違えていないか注意注意する
-
図は文と並行して作成する
- どちらかを先に作成した場合、どちらも修正する必要が出てくることがある
-
注意点
-
図や写真はすべて自作すること
- ネットや書籍からコピーしたものは一部であっても使用不可
- フリー素材であっても使用は一部に控える
- チームで研究を行っているとき、ほかのメンバーが作成した図は、作成者と指導教員の許可を得る(作成者への謝辞を記す)
-
図題
- 「開発システム」、「実験装置」などの一般名称を図題にすることは不適切(人や景色と題名に入れるようなイメージ)
- 複数の図に同じ図題はつけないようにして、それぞれが区別できる図表にする
- 表番号と表題は表の上に示し、本文と区別しやすくするため、題と本文の間に0.5~1行程度の間隔を開ける
- 番号は「図1、図2、・・・」のように論文全体でつける場合と「図2.1、図2.2、・・・」のように章ごとにつける場合がある
- 目安としては、図が全体で10枚以下なら論文全体、超えるようなら章ごとにする
-
図の配置
- 図は原則、説明を記した段落と次の段落の間に配置する
- 2段組みの場合で、図を配置すると大きな空白が生じる場合は当該段の最下部あるいは最上部に配置する(図16)
- 「図〇に示す」と一つの文だけを段落として、そのあとに図を配置し、それに続く説明を図より後に書くのはNG(段落には一つのテーマ)
図16: 図の配置例
- 文末表現
- 図や表を紹介する際には「図4に~を示す」、「~を図4に示す」のように「示す」を使用する
気を付けること
-
開発のためのデータ収集(いわゆる予備実験)は「アイテムの記述」に含める
- 予備実験は測定したことがあっても、「測定方法」や「測定結果」の章に入れない
-
「予備実験」と記さない 予備実験と書かず、実験の内容を記します。
<×な例> 予備実験として画像から接近してくる自転車を〇〇アルゴリズムを用いて識別できるかテストした。 <〇な例> 自転車のハンドルに取り付けたカメラの画像を用いて、〇〇アルゴリズムの対向自転車識別能力を調べた。
-
初登場の略語は正式名称を示す
-
やたらと分割しない
- 一つの章にまとめるべき部分をやたらと分割しない
- 論文は一つのアイテムについての報告なので「アイテムの記述」の章を構成し、そのアイテムの中で使用するデバイスやプログラムは、章の中での節や項として、階層的に配置する
- 節や項や目には、「説明される対象が何か」、「対象の機能はなにか」など、一つのテーマについてまとめる
- 細分化しすぎないように、原則として節や項、目には3つ以上の文があるようにする
-
写真に余分なものを入れない(あんま関係なさそう) 以下の写真のようなことはしないようにしましょう。
図17: 写真に余分なものが入っている例
おまけ
問題1: この例は良い例でしょうか?
認識精度を向上させようという試み
答え
<答>: ×良い例
認識精度向上の試み
問題2: この例は良い例でしょうか?
Cerebras CS-2の実装と性能評価
答え
<答>: ×実際の例
Cerebras CS-2を用いたリダクション処理の実装と性能評価
問題3: この例は良い例でしょうか?
SDDにおける深層学習を用いた経路予測方法の比較検討
答え
<答>: ×実際の例
Stanford Drone Dataset における深層学習を用いた経路予測方法の比較検討