考察
[1]考察とは
目的と構成
今までは以下のような流れで、卒論を構成しました。
- はじめに:研究の目的と目標を明記。
- アイテムの記述:目標達成を目指した解決案を説明。
- 測定方法:目標達成度を示すための測定やシミュレーション計画を記述。
- 測定結果:得られたデータを示す。
これらの流れ続く今回の章では、第五の要素として、測定やシミュ レーションで得た数値に基づいて議論します。
「議論」と「考察」について
「議論」の印象
議論は誰かと話し合うようなイメージがあると思う。しかし、「議論」という言葉には、以下のようなイメージが含まれています。
議論:互いに自分の説を述べ合い、論じ合うこと。意見を戦わせること。また、その内容。
(出典:『広辞苑』第七版, 岩波書店)
論文では読み手を想定し、その人たちを納得させるための論理展開を行います。これも広い意味では「論じ合う」ことに該当する。読者は目の前にいませんが、論文を通して読み手と議論を交わす気持ちで記述することが重要です。
「考察」の定義
「考察」の定義は次の通りです:
考察:物事を明らかにするためによく調べて考えること。
(出典:『広辞苑』第七版, 岩波書店)
そして、この章の目的は、「明らかにする」ことです(考察)。
[2]製作や測定の結果を議論する
調査分析あるいは開発の経験から 書き手が明らかにしたことを記します。調査や開発をしなければ書き手にもわからなかったことは、読み手にも未知の事柄です。結果に基づいて議論を展開します。
次は研究ごとに適した考察について見てみよう。
(1) アイテムの開発を目的とした研究の考察
逆説的ですが、「測定結果」に 示した数値で目標を100%達成したのなら「考察」の章は不要になる。しかし、現実的にはこれは厳しいので、なぜ満足できなかったのかの 「言い訳」を記します。
言い訳の種類
- 1:理論/アイテムの適応限界
- 2:設計における弱点、仕様設定の不備、見積もりの甘さ、方針の誤り
- 3:アイテムの技術的弱点(構造、アルゴリズム、など)、不足(出力不足, 能力不足、など)
- 4:理論,設計,製作上の見落とし
- 5:測定を実施できなかった(データ数の不足) 理由
言い訳をするにしても、技術的・科学的に筋が通っているものが好ましいです。下の例を見よう。下の例は作業ロボットの安全向上を目的として超音波センサを開発したけれども、検出能力は目標に及ばなかった時の考察例です。
センサの使用環境では、人の指の検出が要求される。それぞれの指の太 さは15~20mm程度であるが、開発したセンサは直径20mmの球体を 検出できなかった。そのため、検出可能なサイズの球体を用いて性能を評価した。小径の球体を検出できなかった理由は、反射波のレベルが低く、ノイズとの識別ができなかったためであった。
また、センサの取り付けを想定しているアームは、停止までに最大で50mm移動する。このため、センサには100mm 100mmの距離で指を検出できる 能力を求めた。開発したセンサはこの距離において、直径50mmを超え が物体を確実に検出した。掌に対しては十分な検出能力であるが、指を検 出可能とするための性能向上が必要である。
この例は
1:目的を達成するための条件(指の太さ) 指の太さは15~20mm程度
2:性能を確かめる測定をできなかった言い訳 小径の球体を検出できなかった理由は、反射波のレベルが低く、ノイズとの識別ができなかったため
3:目的達成条件の実際的理由 2段落全体
まとめ
アイテムの開発を目的とした研究の考察では、次の点を重視することが望ましい:
- 目標達成のための条件を明確に示す。
- 達成できなかった理由を技術的・科学的に筋の通った形で説明する。
- 実際的な条件を考慮した議論を展開し、改善点や次の課題を示す。
このように整理することで、研究の結果とその意義を明確に伝えることができる。
(2) 調査や分析を目的とした研究
地質や風況の調査,金属やプラス チック材料の成分や物理的特性の測定分析、などを主たる目的とした研究では、測定やシミュレーションで得たデータから以下の内容を議論をする。
- 1:目的に関連する事項
- 2:明らかにできた/できなかったこと
- 3:確認できた/できなかったこと
- 4:ほかの研究報告やアイテムとの比較・検討
- 5:データに関する原因や理由(理論に基づく、または論理的説明)
なんらかの疑問を解き明かすために調査や分析を実施したので すから、その疑問を振り返り、集めたデータがその疑問に対してどのように答えているかを探っていく。次に実際の例を見ていこう。
観測した6地点の中で平均風速が最大となったのはD棟屋上であった。 B棟とD棟はほかの棟より高い10階建てであったことに加え、測定期間 内は西風が多かったため、東にA棟、西にC棟が建つB棟に比べ、東西 に建物のないD棟の風速が大きくなったと考えられる。
上の例でよい箇所、悪い箇所を考えて良く
よい箇所 測定データを要約して、なにについて考察するのかを明示し、 状況から推定される理由を論理的に述べていること
悪い箇所 「測定期間内は西風が多かった」と結果で示されていないデータを述べていること。
ちなみに、、議論するときになってから、新たな情報やデータを後出しするのはルール違反になる。
考察で検討するデータは、すべて「測定結果」の章までに示すのが基本になる。例えば上の例でいうと、校舎の高さ情報も、もしかすると「測定方法」の章には記されていなかったかもしれないです。書き手にとって当たり前のことは、記述から抜けがちです。しかし、読み手にとっては初めての情報かもしれません。
追加の測定をした場合
研究の遂行上、結果を受けて追加の測定をすることもあります。そのようなときにも、「順序型」として記す必要はありません。上の例に
そこで、南風の日に風速測定を実施した。結果は、南北に建物のないB 棟の風速が、北にC棟、南にE棟の建つD棟よりも高い値を示した。
と追加するのは好ましくない。新たな「測定」とその「結果」を考察で述べることはしません。1つの論文は、目的にかかわる一連の研究について述べるものです。追加した測定があったとしても、整理して「測定方法」と「測定結果」で記します。
(3) 結果からの展望
測定結果で得たデータに関する議論の後には、そこから導き出される展望を議論します。
結果から導き出される展望例
- 1:ほかの研究/アイテムと比較して優れている点/不十分な点
- 2:ほかの研究/アイテムへの適応・応用可能性
- 3:想定していなかった効用など
- 4:アイテムの設計・製作に役立つノウハウ
[3]気を付けること
(1)論文のタイトルに関係ないことを議論しない
あたりまえ?だよね?? あれ?
(2)製作や測定していないことは議論しない
考察は、測定等で得た結果に対して議論する。結果に示されていない特製や性質については議論しない
下の画像を見てみよう
これは単なる憶測に過ぎず根拠がない。この場合は、憶測で埋めるのではなく、なぜ測定できなかったのかを書かなければならない。
また、下のような例もよく見る
今後は~の加工したサンプルを作成して○○値を計測する必要がある
卒論は卒業研究の報告なのでこのように書くのではなく、なぜ計測ができなかったのかのいい訳を核のが好ましい。
(3)結果の数値を繰り返さない。
考察をする際は、データを繰り返し述べず、代表的数値や分析、特性や応答だけに言及して、どのデータに対しての議論なのかを分かるようにして検討分析をする。
(4)主観的 感情的表現を用いない
大小は主観的表現
例を見てみよう
×な例
1:演算時間を大きく減らした。
2:精度を高くした
このような書き方であると具体性に欠き、どれからどのくらい大きいのか、高いのかが分からないですね
○な例
1:~法を用いたときよりも20%演算時間を減らした。
2:プログラム導入前よりも位置精度を5%向上させた。
こちらだと定量的にわかりやすい。同様に、良い悪い等も主観的になりがちなので気を付けよう。
感情的表現を用いない
無意識に感情がいるパターンがあるので、気を付けよう
×な例
1:10%もエネルギー効率を向上させた
2:20%しか演算時間は短縮しなかった
3:偏差が50を越えてしまった
~しか や ~も ~しまったどの感情を表す表現がはいってしまうケースがある。これは気を付けるべきである。感情がはいるケースは他にもある
3:試作した回路は安定に動作する思う
4:開発したロボットをかっこいいと感じる
などの例も感情が入っている例である気を付けよう。
非常にを使わない
非常にもつかいがちであるが避けるべきである。
×な例
1:~法は非常に有用な方法である
このような例もありますが、非常の意味は 1:差し迫った状態 2:程度がはなばなしい様子(出典:[学研 現代新国語辞典]改訂第六版 学研(Gakken)より) という意味であり、論文上では 2:程度がはなばなしい様子として用い られることが多しですが、これは主観的表現になってしまう。割と や とてももミスとしてやりがちなので気を付けよう。もしかすると読み手に協調 したいのであれば、
○○アルゴリズムは△△アルゴリズムに比べて、外乱から受ける影響を10%低減させた
のように数量的に表そう。
おわりにまとめについて
(1)必用性
以外かもだけど入れても入れなくてもよい。 入れるか入れないかは研究分野によって慣習が異なりますので、指導教員と 相談して決めてください。
対応関係は意識するといいらしい
-
1:・はじめに おわりに/まとめ
-
2:緒言 /結言
-
3:まえがき あとがき/まとめ
-
4:背景 /今後の展望
(2)何を述べるのか
おわりに/結言/あとがき/今後の展望を入れるとき 測定あるいはシミュレーションの結果から明らかにしたこと、研究より導かれた今後の展望を述べます。研究目的を達成するために必要であるが、論文の中では検討できなかった項目を記すこともあります。例を見よう(こんな感じだよーっていう例)
おわりに
開発した超音波センサは、超音波音響レンズの採用によって正面から 30°の方向まで検出エリアを拡大した。ところが、最小物体検出能力を高めることには成功していない。その原因は受信信号のレベルが低いためで あり、音響レンズでの損失を減らす工夫が望まれる。
おわりにの箇所では考察で書いたことの繰り返しにならないようにしよう。
(3)「まとめ」を入れるとき
論文の冒頭に“Abstract” や 「要約」「摘要」を記すときには、「まとめ」は入れないほうがよいでしょう。なぜなら、「まとめ」は論文の「要約」であり、同じことの繰り返しになるからです。
「まとめ」では 、研究の目的・論文の目標、アイテムの記述、測定結果、お よび考察(入れなくてもよい)を、それぞれ1~2文で記します。言い換えれ ば、論文のエッセンスを数行に要約します。 それはそのまま「要約」であり、 英訳すれば“Abstract” になります。
やりがちなミス 章のタイトルを「まとめ」としておきながら、「今後の展望」を書いたよう なものを散見します。「まとめ」と題したときには、論文の内容をまとめます
謝辞
指導や協力をいただいた方に謝意を表します。順序は、学外から学内の方とします。謝意を表す方をフルネームで、学外者は学位または敬称を、学内者は 職名を、学生は専攻と学年を添えて記します。学外から補助金を受けたときに もその旨を記します
例をだしておくけどみといてね
本研究の遂行にあたっては、株式会社ナロコより試料の提供を いただくとともに、同社織田信長博士から技術指導をいただいた。論文の 作成に際しては豊臣秀吉教授のご指導をいただいた。装置の製作には修士 課程2年徳川家康さんのご協力をいただいた。本研究には財団法人ロコナ 補助金を用いた。ここに深謝する。
参考文献
ここでは参考文献の載せ方について確認しよう。
(1)文献番号の載せ方
論文や書籍などを参照した際は、著者名に続けて参照した対象を記し、半角上付き数字で文献番号を示します。文献番号は以下のいずれかの位置に示します。
- 著者の名字に続けて
- 参考にしたことを述べた直後
- 句読点の手前
例
- 【①】リンカーンら(1)は、赤外線を用いた障害物検出法を報告した。
- 【②】リンカーンらは、赤外線を用いた障害物検出法を報告(1)した。
- 【③】リンカーンらは、赤外線を用いた障害物検出法を報告した(1)。
本文中ではいずれかのスタイルに統一してください。
著者名の記載ルール
- 敬称は用いません。「○○教授」「□□さん」などは避けます。
- 和文書から参照する場合、外国人名もカタカナで記載します。
- 欧文誌から参照する場合、日本人名もアルファベットで記載します。
- 文献中の表記をそのまま使い、旧字体も変更しません。
書籍を参考とする場合
原則として著者名を記載します。
- 【×な例】
『プログラミング言語 C--』(2)に記されている検出アルゴリズムに、物体移動時の予測を加えた。 - 【○な例】
山縣の検出アルゴリズム(2)に、物体移動時の予測を加えた。
著者名が示されない資料の場合
統計報告やデータシートを参考にした場合、資料名を記載します。
例 2.67
計測回路は ABC-1234 データシート(3)を参考に設計した。
文献番号のスタイル
文献番号の記載スタイルは、卒論集や学術誌の指示に従い、本文と参考文献リストで対応させます。
- 【①】Churchill ら(4)はレーザ光による障害物検出法を提案した。
- 【②】Churchill ら 4) はレーザ光による障害物検出法を提案した。
- 【③】Churchill らはレーザ光による障害物検出法を提案した。
注意: 文献番号およびカッコは半角で記載してください。
(2) 参考文献リスト
論文の最後に、参考文献リストを示します。例 2.65 【】, 2.66 【○な例】, 2.67, 2.68 【①】の参考文献例を例2.69に示 します。
(1)学術誌からの参照 著者名、タイトル、掲載誌名,巻(号),pp. 開始ページ 終了ページ、発行年を示します。複数著者のとき本文では「筆頭 著者の名字+ら」と略しましたが、参考文献リストでは原則として全員を記し ます。ただし人数が多いときには「筆頭著者名+ほか」として略すこともあります。
(2) 書籍からの参照 著者名、タイトル(書籍の中の章タイトル)、編 集者名〔編〕,書籍名,pp.開始ページ 終了ページ、発行年、を記載しま す。ここでは参考元が1ページであったときの例として“p.”としました。“p.” は“page”の略、“pp.”は“pages”の略です。
(3) Web ページからの参照 企業名(株式会社などの種類は略す)、タ イトル、URLとそのページを参照した年月日を示します。URLが1行で収まらないときには、改行して示します
(4) 欧文誌からの参照 欧文で記します。欧文ではカンマとピリオドは 半角で記して、その後に半角スペースを入れます。著者名は、原則として first name のイニシャル、ピリオド, last name を記しますが,first name を略さな いで示すフォーマットもあります。複数著者を略すときには、“et al.” 「としま す。また、学術誌名の“Journal of”は“J.”と略します。
これらのルールを元に作成した参考文献リスト
(1) エイブラハム・リンカーンほか、赤外線を用いた近接障害物検出方 法、日本なんでもかんでも学会誌,123(4), pp. 56-78, 1987
(2) 山縣有朋、強化学習による障害物検出アルゴリズム、日本なんでも 応用学会編、プログラミング言語 C--, ロナコ出版,p. 90,2001
(3) ABC 電子、ABC-1234 データシート, www.abc.com/def/ghk.html, 参照日:2019.2.30
(4) W. Churchill, et al., An obstacle detection sensor using a laser diode, J. Ultra-Super Sensors, 56(7), pp. 56-78, 1999
point 著者名の後をコロンで区切る、「巻(号)」でなくて「巻-号」と示す、発行年の後にピリオドを入れる、など参考文献のフォーマットは論文誌によって異なります。よく確認しましょう
(3)参照してよいもの/そうでないもの
参考文献として利用できる資料は、公表されたものに限られます。以下に具体的な基準を示します。
(1) 論文
- 参考文献にできるもの
- 学術誌(英文・和文を問わず)
-
研究会や国際会議抄録(ただし、内容が論文として公表されている場合は論文を優先)
-
注意点
- 著者名で検索し、該当する公表論文があればそちらを参考文献とします。
(2) Webページ
- 参考文献にできるもの
- 政府機関(例: 総務省、内閣府)
- 国際機関(例: UNESCO、OECD)
- 新聞社・通信社が発表する統計
- 業界団体(例: 電子情報技術産業協会)
-
当該分野のメーカーの公式Webページや技術情報
-
参考文献にしないものの
- Wikipedia(原典が信頼できる場合は原典を参照)
- 個人のブログ、まとめサイト、質問サイト(信憑性が保証されないため)
(3) 書籍・技術情報誌・データシート
- 参考文献にできるもの
- 大学院レベルの書籍
- 当該分野の技術情報誌
-
使用したアイテムのデータシート、アプリケーションマニュアル
-
参考文献にしないもの
-
大学学部や高専教科書レベルの書籍(対象者が既に理解している前提の内容)
-
特例
- 研究分野以外の分野に関連する場合(例: 農業や医療)では、読み手の理解を助けるために学部レベルの知識を含む資料も参考文献とする場合があります。
注意事項
- Wikipedia は便利ですが信頼性に欠けるため使用しません。
原典が信頼できる場合のみ、その原典を参考文献とします。 - 個人ブログや非公式の情報は信憑性が低いため、参考文献としては不適切です。
概要・Abstract
概要(摘要,要旨)は、論文の本編の前に位置しますが、記すのは最後とします。なぜなら概要は、できあがった論文の最も重要な点を記すものだからです。
概要の構成
・研究をとりまく状況あるいは必要性、およびそれに対する解決法(ど のようなアイテムを作るか)、あるいはなにを明らかにするのか(1~ 2文)
・アイテムの説明 (1~3文)
・アイテムのパフォーマンス (結果、特徴) (1~2文)
やりがちなこと 「はじめに」の章をほとんどそのまま転記したものをみかけますが、それではアイテムのアピールとなりません。アイテムとその代表的パフォーマンスを示して、読み手に本編を読もうという気にさせるのが概要の役割です。そこを意識しよう。また、概要には図や表、式は用いません。文字だけで記します。参考文献も入れません。文字数が規定されているときは、範囲内に収めます